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葉祭り更新12日目!明日から4日間は真木兵です。
前回のオモチャの続きの賢葉で今度は葉視点。
あ、前回書き忘れましたが兵葉前提です。
――1ヶ月前、アイツに貸した服を返してもらいに行くだけ。
――そんなふうに自分に言い訳してみたところで意味のないことはわかってる。
ペット
あの日は月が綺麗だった、なんて。
月を見上げるたびにそんな感傷に浸っているのだとしたら、きっと自分は毎晩だってアイツを想っているということになるのだろう。
そんな馬鹿げた話は願い下げだ。
なんて、思いつつ。
肌を撫でる風の生ぬるさを感じながら、自分はまた、飽きもせず地面を蹴るのだ。
あの黄色の満月に向かって。
1ヶ月前、アイツに貸した服を返してもらいに行くだけ。
そんなふうに自分に言い訳してみたところで意味のないことはわかってる。あの医者にそれを告げたところで「サカってんじゃねーよ」だとか不愉快極まりないことを言われるだけに決まってる。
そしてそれを否定出来ない自分も。
しかし実際は、
「…………なんつーか、野良猫に懐かれた気分だな」
医者はそう言ってぼりぼりと頭をかいただけだった。
まだ0時を少し回った時間帯だというのに、アイツにしてはめずらしく寝てたのか、ゆるいスラックスにTシャツといった出で立ち。大口あけてあくびする緊張感のない顔を穴の開くほど見つめていれば、
「おら、入れよ」
と手招きされた。
ああ、うん。
だとか、間抜けな返事をすることしかできず、でも、おじゃましまーすと靴を脱いだ。わざわざ屈んで靴を揃えるほど良い子でもないが、人の家で靴がぐしゃぐしゃなのも落ち着かないので。医者と話ながらさり気なく背後をサイコキネシスで直すと、ばっちり見られていたのか胡散臭そうな半眼と目あう。「ずいぶんオジーチャンの躾けが行き届いてるみたいだな」と何がおかしいのかいつまでたっても笑いやまない。
とりあえず殴ったところで誰も責めないだろう。正当防衛だ、精神の。
「おい野良猫。ミルクくらいなら出してやるよ」
そう言って、医者が出してきたのは年代物のウィスキーで。
俺は詳しくないから良い酒なのかはわからなかったけれど、一口舐めたら甘いチョコレートの香りがぴりぴりと舌を刺激して。やっぱこのヤブ医者遊び慣れてるよなぁと妙なことで感心すると、最初からつい言いそびれていたことをようやくツッこむ気になった。
「俺は猫でも野良でもねー」
失礼なやつだと思うのは今さらすぎる。
医者は、そうなのか、とわざとらしく驚いた顔を見せて、でもなぁ、などと端切れの悪いことを呟いた。
しばらく例の悪い顔でじっとこちらを見つめたあと、
それじゃあ、とグラスの縁がテーブルを叩いて。
「知らない人にエサをもらっちゃいけません、って教わらなかったのか?飼い主のオジーチャンに」
あの肉食獣みたいな瞳に舐められる。
「俺自身がエサなら問題ないんじゃねーの?」
どういう手品かいつの間にか上に乗られているのを見上げながら、どうみてもこの凶暴な医者はネコ科の獣だよなあ、それもライオンかトラだ、ヒョウはうちにでっかい黒いのがいるし、などとどうでもいいことが頭を過ぎる。
「おまえを食ったら食あたりしそうだな」
なんて囁かれる声は甘さのカケラもないけれど、低く掠れていて、ぞくりと背中を撫でた。
だから、
「ミルクご馳走してくれるんだろ?」
とポルノフィルムのような安っぽい台詞を口にする気になったのは。
「おまえ、ウチの猫になるか?」
「ばーか、たまにだからいいんすよ?」
単に体の熱と好奇心と破壊衝動を鎮めるのにちょうどいい、後腐れのない相手が身近にいたからというだけで、まさか本当にコイツのことが好きだから、なんて理由では絶対にない。
だから、
「……本当に首輪つけて飼っちまおうか」
くつくつと喉の奥で聞こえる笑い声とともに首筋をなぞる指に思わず縋りつきたくなるのは、
「アンタも相当イかれてるね」
あの降り注ぐ満月の光に、狂わされてるとしか説明のしようがないのである。
ペット
――――
この賢葉は似たもの同士というか、嫌いなのに惹かれちゃう、みたいな難儀な関係です。ちなみに兵葉前提です。兵部さんはやんちゃな子猫に首輪つけておくべき。あまり構ってあげないと寂しくてふらふらしちゃうよ!いつかまた続き書こうかな。
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