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遅くなってすみません、しかも短いです。相変わらずだらだらと続きます。
ここから先は「葉→兵部」じゃなくて「真木と兵部→葉」の「好き」をたくさん書きたいと思うのに、この分だとあと12、3回くらいかかるかも。
なるべく早く全部うpしたいです。
Kids Nap―キズナ―7
(好き)
(……誰を?)
(思い出せない)
(大好き)
――サイゴニモウイチドアイタカッタ
Kids Nap―キズナ―7
「……少佐?」
真木がその気配を察して振り返ると、兵部は飛行をはたりと止めて、夜空にただ浮かんでいた。表情をなくした陶器のような白い頬を縁取るように、風に煽られた銀髪が月の光を受けてきらめいている。
星屑が零れるようだ、真木は思った。
「あ、いや。なんでもないよ」
兵部はじっと自分を見ている真木に気付き苦笑したが、その笑みには無理があるように思えた。
大丈夫。真木の肩を軽くたたくと水平移動を再開した。
しかしその速度はゆっくりしたものだった。闇雲に探したって見つかりっこない。関東郊外の軍事施設、湾岸の倉庫街、都下の廃墟などは探し尽くした。ESP軍事施設ならたとえその使用が破棄されたものであっても、戦前から生きている犯罪組織の首領として全容を把握している。しかしそのどれもが空手だった。
焦りだけが先行する。
もうずっと、葉の思念波は途絶えたままだった。生きているのか死んでいるのかすらもわからない。精神感応力を持っている兵部のみならず、ただの念動力者にすぎない真木でさえ、何度も祈るように呼びかけていた。
どこにいるんだ。
自分は遠隔透視能力者でもない。それでも、もう何度もそうしたように暗い夜空を見渡す。いつのまにか月が厚い雲に覆われていた。
「――紅葉、」
「ダメ。樹海も空振りだったわ」
テレポートで現れた紅葉はサングラスを外すと目を擦った。
山麓のすそ野に広がる磁気を狂わす一帯は隠れ蓑としていくつもの施設があったのだが、そこも当てが外れたらしい。
ではもっと遠くか。
大所帯でのテレポートだったことを考慮すれば、それも考えにくかったが他にあてはなかった。一晩中、そして朝も昼も探し続けて、葉が行方不明になってからもうすぐ24時間が経とうしていた。もしも敵方の設定するタイムリミットというのがあるのならば残された時間はあまりない。
「君は一度アジトに戻って休んでもいい。他のテレポーターに――」
「このくらい平気です。あの子が待っているんだから」
その言葉に真木も頷き、紅葉は気合いを入れ直すように自分の頬をぴしゃりと叩いた時だった。
――ピリリリリリリリ
兵部の学ランの内ポケットから機械音が鳴り響いた。
三人が三人とも虚をつかれ、その無機質な音はしばらく夜空に響き渡った。それでもすぐに兵部が反応する。
取りだした携帯電話のディスプレイには、発信元の名が表示されていなかった。通常、足がつかないよう細工をしてある兵部の電話は発信は自由に出来ても着信は制限されている。
兵部は電話取る。真木は良くない予感に眉を顰め、しかしそれでも事態が動き出そうとしていることを確信していた。
――やあ、もしもし。
低い、それでいて人を喰ったような楽しげですらある声音に兵部と、聞き耳を立てていた二人は一瞬だけ油断した。
――パンドラのリーダー、兵部京介くん、かな?
兵部は何も答えなかった。電話の向こうの正体を確信し、電波を介し感能力で少しでも探ろうと精神を集中させる。男は気にした様子もなく、むしろ朗らかな調子で続けた。
――もうわかってると思うけど、君のところのチンピラエスパーを一人預かっている。
――その子からこの回線の解読キーも聞いたんだ。僕が……コホン、遊びすぎたせいか口調が元に戻らなくていけないな。いや、失敬。こちらの話だ。私がむりやり聞き出したんだ。なかなか根性のある良い子じゃないか。あまりこの子を叱らないであげたまえよ。おかげで随分手間をかけさせられたが。
「貴様……!」
――はは。熱くなるなよいみじくも一介の組織の長だろう?まあいい本題だ。
――アジトの場所を吐き出す前にイきやがるから、死体の送りつけ先がわからなくて困ってるんだ。仕方ないからこちらまでご足労願えないかい?
――お詫びに、君が来るまでは人質としてこの子は生かしておくいてあげるよ。もっとも、この状態を「生きている」というのかは疑問だがね。では待っている。
「貴様それ以上そいつに何かしたら……っ!!」
――ツーッツーッ
通信は始まった時と同じように一方的に切断された。
「少佐……!」
男の声は二人にも聞こえていた。
「ねぇ、どういうことなの、葉は……っ!」
無事なの?
紅葉が涙混じりで真木の腕に縋る。だいじょうぶだ、とまるで自分自身に言い聞かせるように呟いた。
そうだ、今ここで心配したって何もならない。悪い想像が駆け巡るのを、真木はあえてそれを打ち消した。気付かないふりをしたとも言える。焦りに交じって浮かび上がる想像の中の末っ子は、助けを求めるようにもがいていた。すぐに助ける。心の中で呟いては拳をにぎりしめる。
暗く湧き上がる不安を一つ一つ相手にしていたら、とても前には進めそうになかった。
男の言いなりになるしかないふがいない自分が許せない。顔をあげると、兵部の横顔が目に入る。携帯電話を握りしめ相貌からはそれ以上の感情が読めなかった。怒りと屈辱一色に塗りつぶされて強張った唇がゆっくりと言葉を紡ぐ。
「ああ、行こう」
「しかし場所は」
「会話の間に念波で特定出来た。あの野郎、それを見越していたんだ」
ふざけやがって。
電話越しの念波を介し、場所を探る時間を与えるためだけに一方的に引き延ばされた会話。しかしただの戯れにしてはその内容は許容の限度を超えていた。
沸点まで達した怒りが徐々に冷えて熱のまま凝固するのを感じる。研ぎ澄まされた殺気がそのまま憎しみで射貫く刃になればいいのに。今はまだ何も出来ない。真木は炭素結晶の翼を一段と大きく広げると、兵部に向き直った。
「僕の子供に手を出したことを死ぬほど後悔させてやる」
兵部の冷たく黒い双眸が真木と紅葉を見下ろした。暗い炎が自分に向けられたものではないと解っているのにも関わらず、ぞくりと寒気が背筋を這う。
「少佐、どうか冷静に」
血が上った頭を冷やさないと行けないのは自分のほうだ、と頭を振ったがそれ以上に兵部も危うく見えた。
幼なじみであり同胞でもある葉のことはもちろん心配だが、首領の右腕としては兵部の命が最優先だ。彼を危険に晒す目は一つでも潰さなければならない。聞き入れられたことはあまりなかったが。
気遣わしげに見遣る視線に気付いたのか、兵部が表情を和らげた。
「僕は冷静だよ。葉は誰に似たんだか考え無しに無茶ばっかするから、心臓がいくつあっても足りやしない」
「それをあなたが言いますか」
「はは、ひどいな。でも、そうだね。ちょっと無茶する予定だけどついてきてくれるかい?」
兵部の笑みの形に細められた瞳が二人の養い子を順番に見つめる。
飄々とつかみ所がなく子供のように老獪で残酷な、いつもの兵部に戻っていた。
「もちろんです。少佐」
「あたり前でしょ」
「早く迎えにいってあげないとね、アイツ今頃びーびー泣いてるかもしれないぜ?」
心配かけたお説教はそのあとかな。
無理に唇をつり上げる兵部の笑みが痛々しく、真木は兵部の手を握る。
案の定、指先は驚く程つめたかった。
「ごめん、ありがとう」
兵部はゆっくりと息を吐き出して、真木に向き直る。
紅葉はある意味でいつもどおりの二人の様子に、少しだけ肩の力を抜いた。
「じゃあ行こうか」
兵部が告げた葉の居場所は、N県に点在する旧陸軍の軍事基地跡の一つだった。
Kids Nap―キズナ―7
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