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だいぶ下がったけど37.5℃前後を行ったりきたり……怠いけど寝てても暇だし中途半端!
そんなわけで2つか3つは行きたいな!
よかったらお付き合いくださいませ!一番最初は真木兵です
猛獣の飼い方10の基本
1あるていどのきけんをかくごしましょう
2じぶんをしゅじんだとにんしきさせましょう
3せをむけてはいけません
4むりにいうことをきかせようとしてはいけません
5あまやかしすぎはいけません
6なつくとたのもしい存在です
→7スキンシップがすこしはげしいです
規則正しくキーボードの鳴る音。
「……、真木」
分厚い表紙の百科事典を捲る音。
「まーぎ」
きしりと傾くリクライニングの椅子。
「…………なんですか」
ようやく返事をした真木は、キャスター付きの椅子をくるりと回転させて、兵部に向き直った。
「毎日毎日、よくぞそんなに忙しぶってられるね」
兵部は、心底呆れたとでも言うように、真木がデスクの上に積み重ねた懸案事項のファイルの山を見下ろした。
「ぶってるんじゃなくて、本当に忙しいんです」
あなたがチルドレンにちょっかい出してばかりだからですこのロリコン.
とは、葉でもなければ思わない。
「あと少しで差し当たっての処理は終わるんでお待ちください」
真木はデスクワークで凝り固まった首筋に手をやり首を回しながら、くるりと椅子ごと前を向いた。「これ以上話しかけるな」というオーラを無言で放つ真木の広い背中を、兵部は憮然として見守った。
その冷めた視線に、真木は一度だけぴくりと肩を緊張させたが、あえて気付かないふりをすることを選んだようだった。淀みなく動く指先が一定のリズムでキーボードを叩く。兵部は機嫌を悪くしたのかそうでないのか、にやりと悪戯めいた笑みを浮かべると、真木の背中を覆う黒い髪を指先で掬った。
「……あの、なにか」
「お前は気にしないで仕事を続けるといい」
兵部は指を絡ませたり指先にくるくると巻き付けたり好き勝手に真木の髪を弄ぶ。そして片手で飽き足らなくなったのか、とうとう両手で髪をひっぱりはじめた。
見た目よりもはるかに柔らかい髪は時には血を吸い、硝煙を纏い、それでも今は心地良く指に馴染んだ。夏の熱がこもってぬるく兵部の指先をすべった。
毛の束を一房掴むと、何か動物の尾のような心地がする。
兵部は両手で一房ずつ黒髪を掴むと、三つ編みを始めたのだった。
「い、痛いです少佐」
「あ、馬鹿。動くなよ」
逃避をひっぱられるちくりとした刺激に真木が振り向くと、兵部は不機嫌そうに唇を突き出した。
「前むいて集中しろって。早く終わらせて僕の相手してよ」
真木としては、痛いのもそうだが、能力的な意味でもアイデンティティに等しい髪をいじられ三つ編みやら編み込みやらにされるのはたまったものではなかったが、兵部は、真木が嫌がれば嫌がるほど喜んだ。
真木はまた前を向く。
どこまで打ち込んだっけ、などとディスプレイを視線と思考が滑ってさっきから何一つはかどらない。疲れ目が手元と画面を行きつ戻りつしながら、ようやく調子を取り戻しはじめたところで、水を差すような兵部の言葉。
「でーきたっ」
語尾が浮き浮きと弾んでる声音に、さすがに「何がですか」とは聞けなかった。
「見てよ、真木。長い三つ編み。結構うまいだろ」
兵部は、黒髪の中央に垂れ下がる細い三つ編みをわざわざ真木に見えるように持ち上げる。量の多い真木の髪を全部使うのではなく、一見したシルエットはそのままに一房だけ編み込んだ形に、思ったよりひどいことにはなってないと、ひとまず真木は安堵した。
「……ええ、まあ」
「なんだよ、嬉しくないのか」
どう喜べばいいんですか。
真木は若干青ざめながら賢明に言葉を探す。
「俺なんかより紅葉や澪にやってあげたほうが喜びますよ」
「彼女たちはもう親に髪を結ってもらうような年ではないよ」
真木のせっかくの提案も、兵部に何を馬鹿なことを言ってるんだと哀れむような目で一蹴された。
「いや俺の方がずっと年上なんですが」
「あ、そうだ。このままじゃ解けちゃうね。真木、何かリボン持ってない?紐でもいいけど」
相変わらず兵部は人の(主に真木の)話を聞かない。
手に三つ編みの先を持ったまま、きょろきょろと部屋を見渡す様子は玩具を探す猫のようだった。真木は必要最低限のものしか置かない整頓された自室に喝采しつつ、「残念ながら」と溜息をついた。
「んーじゃぁ仕方な……ん?あるじゃん、これでいいや」
一度はあきらめかけた兵部だったが、すぐに嬉しそうに真木にじゃれつく。
真木はいきなり背後から抱きしめられてどぎまぎしたが、すぐに青ざめることになった。
「ほら、ネクタイ」
「えっ」
兵部は背後から片手を回して真木のネクタイを引っ張った。
「ちょ、少佐、やめ」
「自分で脱ぐのと僕に脱がされるのどっちがいい?」
脱ぐって。
たかだかネクタイ外すだけじゃん?!と心の中で叫ぶが多分どうせおそらくきっと、いつもの流れで最終的に脱ぐはめになるのだろう。
「あ、今エロイこと考えてる。真木やらしーんだー」
「ちが…っ!というか透視まないでください!今外しますから」
結び目に指をかけ、しゅるりと外したストライプのタイを兵部に渡す。
眼を細めて受け取る兵部はいつになく上機嫌のようだった。
ネクタイで蝶々結びにされた三つ編み。
これだけだって珍妙なのに土台が成人男性のむさ苦しい長髪だというのだからその滑稽さは想像するだけで力が抜ける。
真木は、もう勝手にしてください、と再びパソコンに向かった。
「ねぇ真木」
「まだなにか」
「まだ、はこっちの台詞だろ。まだ終わらないの?」
「誰のせいですが」
「要領の悪い真木のせいだろ」
「……ハイソウデスネ」
思わず棒読みになるのは致し方ない。
兵部は満足げに頷くと得意げに口を開いた。
「僕が若いころ、宿題をしない子供は終わるまで、怖い教師に椅子に縛りつけられたんだ」
「……虐待ですね」
「戦前ならよくあることだよ。僕はそんなことされずとも勤勉だったけど」
兵部は昔を思い出したように微かに笑った。
実際は、兵部が優秀だという以上に、もっと厳しくある意味恐ろしい女王様のような姉がいたためではないかと真木はこっそり推測した。
「というわけで真木。ちょっと触手伸ばして」
「はあぁ?!」
「うにょーんって。両サイドの髪を炭素うにょーんって」
「い、いやです」
「いいじゃん」
「謹んで辞退します」
「わからないこというね、君」
「これ以上なく明快だと思いますが」
椅子の背もたれに張り付いた背中に冷や汗が伝うのが自分でもわかる。
案の定、兵部はなおも楽しげに続けた。
「ほら、早く。これで仕事も集中して早く終わる。僕も楽しい。ね、良いこと尽くめだろ?」
「……わかりました」
真木はとうとう観念して炭素結晶で髪の一部を硬化させて縄のように伸ばした。
兵部は両手にとると、椅子の背もたれごと真木の胴体にぐるぐると巻つけはじめたのだった。
二重三重に適当に巻き付け背もたれで端と端を縛ると、兵部は腹を抱えて笑い出した。
「これがほんとの自縄自縛ってやつだな!」
ゲラゲラと切れ長の双眸に涙まで浮かべて笑い転げる育ての親兼恋人に、真木は縛られたままうっと涙を堪えて誓う。
(……絶対何が何でも全速力で終わらせてやる)
しかし、身動きの取れない真木にこのあと再び退屈した兵部がどんな悪戯をするかは、火を見るより明かなのだった。
スキンシップがすこしはげしいです
(このあと兵部さんは真木さんの机の下に潜り込んでなんやかやするでしょう)
―――
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