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行為のあとは、兵部はわりとすぐに眠りに落ちる。精神的にはいかに老成していようとも体は15の少年なのだから当然といえばそうかもしれない。
すやすやと、穏やかな寝息。あらかた激しい欲の名残を拭いさったが、後ろめたいような気恥ずかしいような独特の情事の気配は生温くそこに漂っている。
枕に散らばる銀色の髪が薄暗い室内灯の光を映していた。
半開きの桜色の唇からは、寝言だか吐息だかわからないむにゃむにゃした睦みごとが囁かれ、真木の心臓はどきりと高鳴った。
剥き出しの肩と、薄く色づいた首筋が目に毒で、薄手の毛布を肩までかけてやる。男2人が並んで寝るにはたいして広くない自分のベッドを一瞥するが、よくよく悩んだ末に兵部の隣に慎ましやかに潜り込んだ。
「おやすみなさい、少佐」
どうぞよい夢を。
ただでさえ狭いベッドなのだから邪魔になってはいけない、
と真木が長身の体を縮こませて壁のほうをむいた時、
「い、痛い、痛いです少佐!髪を引っ張らないでください!……って、起きてたんですか?!」
真木は長い髪をぎゅうぎゅうと引っ張られ、たまらず振りかえるとやたら不機嫌そうに睨む兵部の半眼と目があった。。
「なんでそっち向いちゃうんだよ」
「いや、あの、狭いか……」
ら。最後の1音は言葉にならず、兵部の唇に飲み込まれた。
「……少佐?」
「おまえってバカみたいに背中広いよな。だからあっち向かれると、余計目立つっていうか、むかつくんだけど」
「はあ」
「ご自分が華奢だからですか」とは思っても口に出来ないから曖昧に頷くしかない。もそもそと寝返りをうち、完全に兵部と向かい合い、腕を伸ばし、狭いベッドの中でしっかりと抱きすくめた。
「ええと、失礼しました」
「嫌いじゃないよ。こんなに育っちゃったんだーって寂しくはあるけどね。僕の背中を見て育ったちっちゃな子供が、こんなに大きくなるなんて」
兵部は身じろぐと真木の胸板に唇を押しつけた。やわらかな唇そのものよりも、ふわりと揺れる絹のような銀の髪がくすぐったい。
たしかに、奇妙な気がした。見上げるほど大きかった育ての親は、昔とかわらず充分に育った真木よりもやはり遙かに強い。力も、意思も、その頑固さも何もかもだ。今だって兵部が真木を支配する唯一絶対の神であることはかわりはないが、形だけ見れば一時とはいえこうして腕の中に閉じ込めている。
薄い胸、折れそうなほど華奢な首、繊細なあご、いまだ熱にくすぶる暗い瞳。
もちろん彼は、見かけどおりのか弱い子供だなんてあるはずがないけれど。
「あなたが、【我々】の背中の後ろで大人しく守られてくれるボスならどれだけいいかわかりませんよ」
「それは出来ない相談だね。僕の前に立ちでもしてみろ。蹴っ飛ばして置いてくぜ?」
兵部の向かう先は、破滅へと続く終末。
たった1人過去にとらわれ、未来に縛られた、寂寥たる一本道。
「でも、僕の背中を預けられるくらいには信用しているし、頼りにしているんだよ」
兵部はにっこり笑うと両手を伸ばして大きな子供の頬を包みこんだ。
3せをむけてはいけません
(視線の先にはいつもあの人の背中がある、幸せと苦しみ)