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「……真木の困った顔を見るのが好き、と気付いたのはいつのころだったかな」
僕はひっそりと呟いた。誰も気付かない、誰も聞こえない。
空に浮かぶのは僕自身と、闇を待ちきれず顔出す気の早い一番星だけだった。
白々しい程透き通った青空が、夕日に焼かれて赤くそまっていく。
赤と青が中途半端に交じりあった黄昏の闇に浮かぶ。遙か下の下界を見下ろすと、自然と口元がほころんだ。
(でも、僕のことを考えて僕のためだけにそういう顔をするのが好き、と気付いたのはつい最近だね)
他人に困らされてる真木を見たって面白くもなんともないのだ。
(僕のことだけで頭をいっぱいにして、それきり何も見えないあの子が好き)
ふと足元を見下ろす。つま先のずっと下には、東京タワーの赤いライトがある。真上から見下ろすせいで、尖塔は細い針のよう。さらにその下見下ろす先には、黒い羽を伸ばして見当違いなところを探し回っている真木がいた。
夕日の逆光のせいで、真木の姿はゆったりと飛び回る黒いぼんやりとした塊にしか見えなかった。
地上から見あげれば、羽を広げて旋回する鳶か鷲かカラスに見えるのだろうか。
カラスがいい。彼は大きくて賢かった。
「…やっと見つけましたよ、少佐!!!会議放り出してどこへ行ってたんですか!!」
海に程近いタワーの上空。
真木は僕を見つけると、もう逃がさないとばかりに細い肩を掴んで息を荒げた。
僕はゆっくりと振り返りざま「あーあ、見つかっちゃった」と舌を出した。
少し、わざとらしかっただろうか。
真木が僕を見つけたんじゃない。僕が真木の前に姿を現したのだ。
ずっと、僕を探して右往左往する彼をここから眺めていたなんて、知ったら真木はどう思うだろう。
「ってもダミーの仕事だろ?いくら世界各国の企業が相手だっていってもそのくらい真木の采配でなんとかならない?」
「信頼はありがたいですけどね。パンドラは貴方の組織なんですよ。少しはトップとしての自覚をもっていただきたい」
「ごめん、ごめん。ほんと言うとあの部屋、息がつまっちゃってさ。いいじゃん散歩くらい」
真木は、よほど探し回ったらしく息を荒げている。
誰にも何も告げず抜け出した僕に苛立っているのか、無事な姿を発見して安堵しているのか、あるいはその両方だった。
「最近忙しかったから、ほんとにただの息抜きのつもりだったんだ。心配かけてごめんね」
僕はこれ以上ないほど神妙に、こうべ垂れて見せる。
真木は怒りを和らげ、あの困ったような顔にさらに眉間の皺を追加した。
「いえ……、そういうことでしたら言ってくだされば調整しましたのに。さあ船に戻りましょう、ゆっくり休んでください」
「休まなきゃなんないのは君のほうだろ?わざわざ探しにきてくれてありがとう」
僕は真木の背に腕を回すと、幼い子供にするように少し高い位置から頭をかき抱いて、癖の強い髪に指を通して撫でてみた。広い空の下あてもなく探し回っていた真木の背は冷え、もたつく長い髪の間にもひんやりとした風が籠もっていた。
「俺はべつに。そうだ、帰ったら暖かいものでも作りますよ」
「んー、じゃー、鍋にしよう鍋。みんなでワイワイつつくのがいいんだよね、アレ」
「皆で、ってどれだけ大きい鍋を用意するつもりですか」
真木はぎょっと目を瞠り、しかし次の瞬間には「業務用のがあったかな」と算段をつけて頷いた。
(ほら、またあの顔)
あの顔が好きだ。
無理難題をふっかけられて、それでも僕の意思にどこまでも忠実であろうとする姿。
優しくて、まっすぐで、でもどこか不器用で。こんなに大切に思われていることを知っていて、嫌に思うはずはない。それが自分が長年手塩に掛けて育てた養い子ならなおのこと。
「仕方ないですね」
「ふふん、楽しみだなぁ。よし、そうと決まったらさっそく帰ろう」
僕は上機嫌に頷いた。
きっと真木は、探している僕自身にずっと見られていたなんて、みじんも気付いてないに違いなかった。
――――
「僕レベルの能力者は自分では死ねない。銃は効かないし、大抵の事故や攻撃なら無意識のサイコキネシスで心拍を維持してしまう。……飛べるんだから飛び降り自殺も無理だろう。酸素の泡を作れるんだから溺死も無理だろうね。そもそも美しくない」
真木の体の下は薄暗くて居心地がいい。
天井の灯りは真木の大きな体躯に遮られここまでは届かない。重みで押し潰さないように顔の横についた腕は肘から曲がり、僕を暖かな暗がりに閉じ込める。
「なぜ今そんな話を?あなたに死への衝動があったとは知りませんでしたね」
「そうじゃなくてさ、もう一度殺されるなら今度は君がいいな、って話」
僕と同じく素っ裸の真木を見上げ、彼の鎖骨の間に指を這わせると、真木はこれ以上ないほど顔を顰めた。またあの困った顔。
「冗談だよ」
さすがに言い過ぎたかと、僕は慌てて言い直した。しかし全くの偽りというわけでもない。
真木はなんだって僕の願いを叶えてくれるから、奥の奥に隠していたひとつまみの本心が何かの拍子に浮上してきただけなのだ。
「でも僕は、一度殺されているんだ。もう半世紀以上前に。彼に出来て、おまえに出来ないってことはないだろう?」
真木は優しい。
僕の願いをなんだって叶えてくれる。
誰よりも強い癖に(パンドラの中ではもちろん僕の次に、だけど)、僕の利にならないことは決してしない。僕の命令がなければその力を行使しない。たいていのことなら思い通りになる実力と、それだけの頭があるのに。今だって、真木は僕を拒む権利が充分にあるのだ。
でも彼はそれをしない。僕のどんなワガママにだって懸命に応えてくれようとする。
「ん、んっっ、…ぁ、ああっ」
でも、今回ばかりは聞いてくれなかった。ごつごつと骨張った大きな手と指に、喉を絞められたらどんなに気持ち良いかと夢想するのに、叶えてはくれなかった。
代わりに、何度も体を交わすうちに自然と覚えてくれた僕の一番弱くて敏感なところを的確に触れてくる。僕の内部を貫くモノだって、彼の体躯に見合うぐらい、とても大きく硬く凶悪そうな見た目をしているくせに、こちらが焦れるほど優しい動きなのだ。
「そんなに気持ち良いんですか?」
真木は、淫らがましく声をあげる僕を非難するわけでもなく、窘めるわけでもなく、言葉通りの意味でただ疑問に思うらしい。僕は首をかくかくとふって答えた。
「ん、っおかしくなり、そっ……」
真木の背に腕を回し、両足をきつく腰に絡ませて引き寄せる。
もっと奥まで、もっと乱暴にして、もっと。
ギリリ、と爪を背中に突き立ててしがみつくと、真木は目を瞑って顔を顰めた。
痛かったのだろうか。それとも、興奮して狭まった僕の内部の締め付けに耐えているのだろうか。
「……少佐っ、俺、もう…」
「僕をきみの好きにしていいよ」
(真木になら、好きにされていい。どんなふうに扱われてもいい。)
脳裏に閃いた甘美な誘い文句は、しかし反対に僕の心を急速に冷やしていった。
真木の好きなやり方で目一杯愛されたいのに、きっとかなわない。
僕のいうことなら何でも聞く、ということは、結局僕の想像の範囲から出はしないということだ。
「は、っぁあ、んっ。ま…ぎっ…」
それでも、そんな詭弁はすぐに熱にとかされる。それだけ真木の動きは巧みだし、僕の体を熟知していた。
熱の塊に一番弱いところを何度も擦られ、シーツがベッドからずり落ちるくらい激しく揺さぶられると、真木のこと意外考えられなくなる。
ゴムはつけてなかったから、腹の中でどくどくと白濁が放出されるのを知った。
満たされるような、汚されるような、奇妙な感覚。
見上げると、真木は苦しそうな顔をして僕をぎゅうと抱きしめていた。
あの困ったような顔とはちょっと違う。気持ちよさそうな、苦しそうな顔。大の男がこんな顔をしているのはちょっと滑稽だ。真木は強面だからなおさら。でも、真木のこの顔を知っているのは僕だけなんだから問題はない。
「ねぇ、さっきの話なんだけど」
「なんですか」
「僕を殺して、って話」
「しつこいですね。いくら俺でも怒りますよ」
「嘘だね。君はいよいよとなったらどんな命令も僕に従うはずさ。賭けてもいいぜ」
真木の瞳に、困惑以外の感情が宿った。
と思ったと同時に、真木の瞳の色が僕の目の前いっぱいに広がった。
顔を重ねられ、キスをされたのだと知る。
「ん、はっ…」
「俺が少佐に手をかける?こんなに大切に愛しているあなたを?俺はあなたを守るためなら命だって惜しくないとおもっているのに。そんな口、きけないようにして差し上げましょうか」
欲に塗れた瞳に睨め付けられ、もう一度、今度は首筋を乱暴に噛みつかれ、僕は思わず喘いだ。
学ランの襟でも隠せない痕がついたらどうしてくれるんだ。
真木は僕の困ることは決してしない。僕の願いなら何でも叶えてくれるはずなのに。
「そうだね、僕の失言だったよ。君がどれだけ僕を愛してくれてるのか教えてよ」
その思いつきは、僕をとても興奮させた。
一度出したはずの僕の熱がまた頭をもたげ、とろりと腹の上に伝うのを、真木は指で掬って唇に運んだ。
でも、僕が本当に望めばきっと真木は叶えてくれるのだろう、僕の最期の願いを。
「仕方ないですね」などと言いながら、あの僕の大好きな困り顔で。
desire
――――――
少佐はマゾイヤンデレだと思います。
どこまでなら真木に許されるかなー、嫌われないかなー、とか測りながらずぶずぶと自分を傷つけてく感じで。
次もヤンデレ兵部さんです。
お気に召したらぽちっといただけたら嬉しいですv
何事もとりあえず兵部少佐というフィルターを通してから脳に伝わってるような真木さんが可愛くて仕方がないです。見当違いなところを探す大きなカラスがとっても可愛いです。口では文句を言いながら何でも言う事を聞く真木さんが堪らないです。
ん?こうして考えてみると二人とも病んでる感じですね!
「大切に愛している」って言葉が私の中で今年一番の萌え台詞でした。
ベッドの中では何もかも忘れてお互いの事だけ考えていればいいと思います!!
で、そんな少佐を相手にしてると真木さんまで病んじゃうよね!!だよねだよね!!
え、その台詞萌えでした?ありがとうございますvv「こんなに大切にしてるのになんでわかってくれないんだ」って逆切れしちゃう真木さんとかどうかな…とも思います。
私的には、
>ベッドの中では何もかも忘れて~
これが萌えすぎました…!!ごちそうさまです!!!