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七夕っていうと、まず宮沢賢治の銀河鉄道、ケンタウル祭を思い出します。
星に願いをなシリアス真→兵←葉+真木葉
カテゴリーに悩みましたが、一応幹部捏造子供時代にしてみました。が、色んな要素がまざってます。
ちょっとシリアス。
それでもよかったらどうぞ
星の巡暦
「はい、出来たよ、紅葉」
「ありがとう、少佐」
ごく普通の都内のマンションの一室。
蛍光灯の下ではにかんだ笑みを見せてくるりと回る少女に、兵部は目を細めた。
色鮮やかな柔らかい繻子の帯がふわりと揺れるのは、オレンジ色の金魚が闇夜を泳いでいるかのような風情だったけれど、少女は今着せられたばかりの揺れる袖をひっぱたり髪を撫でつけてみたりとそわそわと落ち着かない様子だった。
「大丈夫、とてもよく似合ってる」
「そうかしら?なんだか、胸のところがきゅうくつ」
胸元の硬い帯板をつついて、紅葉はやはり恥ずかしいのか早口に言った。
「すぐに馴れるさ。これがこの国伝統の夏の衣装だよ」
「そうなの?……あ、真木ちゃん、葉、おかえり!」
紅葉は窓の外に広がる夜空に見つけた人影に、大きく手を振った。
名前を呼ばれ、ベランダに着地した二人の少年は、手に何か大きなものを持っていた。
「見て!少佐が着せてくれたの」
「いいなー、俺も着たい!」
「じゃあ今度みんなで浴衣着て、お祭りにでも行こうか」
ぷぅっと頬を膨らませる末っ子を宥めるように頭を撫でて笑う兵部も、今夜はいつもの学生服を脱いで、木綿の浴衣に身を包んでいる。国籍もわからない拾った3人の子供達に、せめてこの国の文化を教えようと諸処の節句や祝い事はかかさずしめやかに行って来たのだった。
「そうだ。少佐、言われたのとってきましたけど、こんなの何に使うんです?」
「ああ、ありがと。手を切ったりしてないかい?」
「……平気」
真木は手に抱えていた物を兵部に差し出した。
今初めて気付いた、というように紅葉が首を傾げる。
「何それ、木?」
「違うよ紅葉。笹、見たことない?」
「そりゃあるけど……なんでここに?」
真木と葉が2人がかりで抱えて来たのは大きな(ひょっとしたら兵部の背丈くらいはあるかもしれない)笹だった。緑色の葉がばさばさと揺れている。
「これはね――」
兵部が指を一本立てて言うなり不可視の力で笹がばさりと浮き上がり、垂直に白い壁に立てかけられる。
「――こうするんだ」
ひゅん、と。
どこから、またいつの間に用意したのか、たくさんの折り紙や包み紙を切ったり裂いたり繋げたりした色取り取りの飾りがテレポートで現れててしゃらしゃらと軽い音をたてて笹の葉に巻き付いた。
てっぺんには金色の折り紙で作った星がぶら下がる、綺麗に装飾された笹を見て葉が叫ぶ。
「クリスマスだ!」
「おしい。ちょっと違うな」
だが兵部は苦笑して葉の頭を撫でた。
何が違うのかしらと紅葉も不思議に思い、隣の真木を見上げたが彼もわからないと言った顔をしていた。
「クリスマスツリーじゃなくて、七夕の笹飾りだよ」
「タナバタ?」
聞いたことのない単語に紅葉は首を傾げた。
よくわからないけれど、でも、何かとても楽しそうな響きだった。わからないことは、なんでも兵部が教えてくれるのだ。3人の子供達はいつものように兵部を見上げて、言葉の続きを待った。
七夕の夜。年に一度、天の川に隔てられた恋人達が会える夜。
それも、雨が降ったらお仕舞いなんて何て残酷なのだろう。
「じゃあ、晴れますようにってお願いしなきゃ」
「俺も!京介に会えなくなったらやだ」
ひっそり隠れるようアジトにしている都内のマンションからでは、銀河どころか星だって見えやしない。
兵部は空に浮かんで天の川を見せに行こうと思ってはいたが、その前にまだしなければいけないことがある。兵部は手品のようにひらりと細く切った折り紙を取り出すと、3人に一枚ずつ渡した。
この短冊に願いごとを書くんだ。
星が願いを叶えてくれるよ。
兵部は、特に真木の目を真っ直ぐに見て微笑んだ。
年下の2人の心配をするのに精一杯の大人びた長男は、こうでもしないと自分の望みを口にしない。
兵部の視線に、真木は癖の強い黒髪を揺らしそっぽを向いた。しかしいくら虚勢を張っていてもまだまだ子供で、兵部にもらった紙切れを大切な魔法の鍵のように握りしめていたのだった。
「いちおくえんほしい!」
「こら、葉。そういう願いじゃなくてさ。もっとこう……」
兵部は無邪気なことを言ってふわふわと頼りなく漂う葉を床に引き戻し、「願いごとなんて叶うはずないんだから真剣になるのも馬鹿らしい」と思いながらも、知らず熱心にマジックペンで書き込む紅葉と真木の短冊を覗き込んだ。
「じゃあ私は、『超能力が上手になりますように』って書くわ」
「いいね。真木はなんて書いたんだい?」
兵部は慌てて隠そうとする真木の短冊を覗き込んだ。
――――――――
『少佐に会えますように』
真木はたった今書き込んだ細長い紙の切れ端を握りしめるとびりびりに引き裂いた。
細かくちぎれた紙くずが、初夏の生温い風に乗ってひらりひらりと飛んでいく。季節外れの桜の花びらのように白い紙切れが闇夜に散る。
願いごとなんて叶うはずがない。
神になんて祈らない。真木の信奉する神は数年前に拾ってくれた兵部ただ1人であり、その神にも等しい兵部が自ら望んでバベルの虜囚になったのだ。自分がこうして思い悩むだけ無駄だろう。
わかりきった事実に、真木は何度目かの溜息をつくとベランダから部屋に入った。
むわっとした熱気を振り払う冷房の風が心地良い。
ソファに腰掛けシャツのボタンをいくつか外すと、ようやく人心地ついた。
パンドラは創立からだいぶ母体も大きくなり、構成員も増えたがまだまだこれからの組織だ。
真木のやるべき仕事は多い。
兵部に拾われ救われた人間の中でも、真木達3人は兵部に育てられたこともあり、幼いながらいつのまにか側近、幹部と呼ばれるようになっていた。中でも忠誠に厚く実務に秀でた真木はその手腕を買われて、兵部の留守とパンドラの運営を一手に任されていたのだった。
真木とて自分がまだ成人もしてない若造であることは自覚していたが(もちろん老獪な兵部と比べること自体が間違っているのだが)、それでもせめて、兵部がいつ戻ってきてもいいように、彼がいない間は自分が組織を守ろうと使命感に突き動かされている。
休む暇もない。
真木は彼にしては珍しくソファにくずれるように体を投げだすと痺れるような眠気に重い瞼を閉じた。いや、休む暇なんていらないのだ。兵部は1人、居心地がいいはずもないバベルの独房に囚われているのだから。自分1人が休んでいいはずがない。眠気を振り払うように起き上がると、ぼんやりと壁にかけられたカレンダーを見やった。
7月7日。
七夕の夜。年に一度、天の川に隔てられた恋人達が会える夜。
昔兵部がそんなことを言っていた。
そしてそのあと、願いを叶える方法を教えてくれた。
安っぽい折り紙の切れ端に書いて、笹に吊して、ただそれだけ。
兵部がいなくなった今はもちろん笹なんてないが、昔言われたことを思いだして、ポケットに入っていたどこかのコンビニエンスストアのレシートに叶いもしない願いを書いたのだった。
結局破って捨ててしまったけれど。
ばかばかしい。
真木はかぶりを振った。
星に願うなんて馬鹿げている。願いは自分の手で叶えなければいけないのだ。
ならばそのために今自分が出来ることは――
(このたまった書類を片付ける事くらいか)
徹夜続きでぼーっとする頭を、必死で現実に焦点を合わせる。
その時、鈍い頭にさらにズドンと鈍い衝撃が走った。
「……った!」
「あ、悪ぃ、真木さん」
振り返ると葉がいつものへらりとした笑みを張り付けてそこにいた。
手に持ったのは、大きな、笹。それが真木の頭に木刀のように振り下ろされたのだった。
「な、なんだこれは」
「何って、笹。今日七夕だから取りに行ってきた。昔真木さんと行ったとこ、まだあったよ」
「少佐もいないんだ……そんな遊んでる暇は」
「だって、」
こぶが出来たかもしれない後頭部を押さえながら真木は眉を潜めた。
葉は笹を抱えたままふわりと浮かびあがって言った。
「だって、俺、願いごとあるもん。少佐に会いたい」
「無理いうな。少佐は――」
「なんで?真木さんは寂しくないの?!」
さやさやと鳴る笹を抱えて俯く横顔は捨てられた子犬のように頼りなく揺れていて、真木は心を痛めた。普段は誰よりも明るく、平気な振りをしているが、紅葉や真木と違って葉はまだ十代前半のほんの子供にすぎない。そんな多感な時期に、親以上の気持ちで恋い慕ってる兵部に置いていかれた葉のショックはトラウマと言ってもいいかもしれないほどの傷なのだろう。
真木は、残りの仕事は明日また徹夜でも何でもすればいい、と思い直して葉に向き直る。
普段はそんな気恥ずかしい真似は出来ないが、兵部のしぐさを忠実に思い出して、彼がするように、今にも泣き出しそうな葉の頭を抱いた。
「一緒に短冊を書こう。会えなくても、会いたいって願うのは自由だからな」
「うん!」
葉はにっこり笑って、大量の折り紙の束を差し出した。これから一緒に輪飾りや星のオーナメントも作る気でいるらしい。ほんとに徹夜決定だな、と真木は笑った。
ハサミを出して糊を持ってきて、真夜中の工作は、なかなか良い気分転換にもなった。裂いた紙を輪にして繋いでいく単純作業に年甲斐もなく熱中していると葉がさっそく飽きたのか折り紙で作った紙飛行機を念動力でどこまでも飛ばしながら首を傾げた。
「やっぱり、だめかな。会えないかな」
「最初から解りきってたことだろ。無理を言うな」
「違うよ、真木さん。そうじゃなくて……」
「あ、」
真木も気付いた。
「少佐、言ってたよな。雨がふると織り姫と彦星は会えないって」
分厚いカーテンの敷かれた窓の外は、しとしとと音もなく、雨が降っていた。
辛気くさい、嫌な感じのする雨。もしくは、恋人に会えない悲しみに暮れた織り姫がさめざめと流す涙。
例しにカーテンを開けると、空はどんよりと灰色の雲に覆われていた。真木がベランダに出ていた時は雨はふっていなかったが、あの息がつまるような湿気を思い出してなるほどと納得した。
「会いたかったな」
葉は真木の隣に立って、悲しそうにぎゅっとカーテンを握った。
真木は葉の肩を抱いて言った。
「少佐はこうも言っていたぞ。『エスパーはどこにでもいける』って」
「真木さん?」
「雲で星が見えないなら、雲の上まで行けばいい。空まで行って、天の川を見に行こう」
葉が、呆気に取られたような顔をして、しきりに目を瞬かせて真木を見上げる。
柄にもないことを言ってしまった、と真木は頬が熱くなった。
葉はとふわりと浮かびあがると真木の熱くなった頬に子供のキスをした。
(少佐に会えますように)
折り紙の短冊に願いごとを書いて吊して、せっかく作った笹飾りをすっかり綺麗に笹に飾り付ける。
さあ星を見に行こうと窓を開けると、ふわりと生暖かい風が部屋の中に吹き込んだ。
闇がはためき、銀の星が輝く。懐かしい声に呼ばれたような気がした。
――――――――
「ただいま。真木、葉」
闇よりも濃い黒目が自分を迎える2人の子供に向けて笑みの形に優しく細められ、銀色の髪が生温い初夏の風にはためいた。兵部は空に浮かんでもう一度「ただいま」と片手をあげた。
「どこいってたんですか、探したんですよ少佐!」
「そーっすよ。とうとう呆けて迷子になったのかと思っちまったじゃないですかー」
「チルドレンのとこ。あ、葉はあとでお仕置きな」
兵部は音もなくカタストロフィ号の甲板に着地すると、出迎えた真木と葉に両手を広げ、芝居がかった口調で空を仰いだ。
「今夜は良い天気だねぇ。絶好の月見日和じゃないか」
「月見は秋だろ。ほんと呆けたんじゃねーのジジイ」
「冗談さ。今日は七夕だろ?ほら、2人にお土産」
「何です?」
兵部がテレポートであたかも何も無いところから手品のように取り出したのは、立派な笹だった。
「海の上じゃさすがに手に入らないだろ?だからわざわざ日本に行ったんだけど」
「へぇー、さすが少佐、気が利く!チビどもも喜ぶな」
「うん、みんなで願いごとを書こうよ」
兵部は笹の葉を真木に押しつけると、もう一度満天の星空を見上げた。
星がきらきらと零れて落ちて来そうな南半球の夜空は、日本のそれとはくらべものにならない。
ミルクを溢したような天の川に一端に、薄暗い星を見つける。
南十字星だ。群れからこぼれた銀の星がひとつ、水平線に溶ける。
願いごとを唱えるひまもないくらい、いくつもいくつも零れては消える星を、おもしろうそうに眺める兵部の横顔を真木はちらりと盗み見た。
「なんだよ」
「いえ、その浴衣もよく似合うなと。って、その恰好でチルドレンのところに?」
「うん、おかしい?」
戦前生まれということを考慮すれば着物はコスプレのような学生服よりはましだろうかと思い、いやいや、世界を牛耳るパンドラの首領が土着行事にうつつを抜かしてると思われては示しが、と打ち消す。
しかし、品よく紺に染めた木綿の浴衣は、白いほっそりとした体の線に誂えたように似合っている。
「葉、紅葉達を呼んできてくれるかい?みんなでここで天の川を見ようよ。あと飾りもつけるから折り紙と糊とはさみもよろしく。この時間ならまだチビ達も起きてるだろ?」
兵部が呼ぶと、葉はひらりとデッキを飛び越え船内に消えて行った。
真木も兵部につられて満天の空を眺める。
「織り姫と彦星、会えたかな」
兵部はほとんど無邪気と言っていいほどの声音で夜空を見上げた。
「きっと、会えたでしょうね」
真木は兵部への返事というよりは独り言のように呟きながら、数年前の、雨が降っていた七夕の夜のことを思い出していた。
コンビニのレシートの裏に叶いもしない願い事を書いてびりびりに破ったあの夜。
雨の中びしょぬれになって、意地でも葉を連れて雲の上まで飛ぼうとしたあの夜は、当たり前だが兵部には会えなかった。懐かしい風に呼ばれた気がしたのは、そうであってほしいという幻聴。
結局葉と2人してずぶ濡れになって、それから優に半年は兵部の顔を見ることすら出来なかったが、それでも今となっては良い思い出だ。
あの時は会えなかったけれど、こうしてまた、七夕の夜に愛しい想い人に会えたのだから。
今日も、明日も、来年も、10年後も。
愛しいこの人のそばにいることが出来ますように。
願わくば、星が落ちる最後の瞬間まで。
だいじょうぶ、きっと叶う。
きらめく星空は雨が降ろうと雲に覆われようと、平等に光を地上に降り注いでる。
まして自分たちはエスパーなのだから、望めば雲も雨もつきぬけて空の上まで行くことができるのだから。
星の巡暦
――――――
とゆーわけで、拾った直後→少佐捕まってすぐ→今現在にしてみました。
途中、わざとこういうひっかけというか仕掛けにしてみたかったんで、わかりにくかったらすみません…
では、これを見てくださったあなたの願いも叶いますように。良い七夕を!
お気に召したらぽちっといただけたら嬉しいですv