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この前提の兵部×葉はプラトニックです。
ふざけてちゅーーとか小さいころはしたよねって程度。
注意:たいしたことないかもしれませんが鬱展開です
それでもよろしかったらどぞ
瞼を閉じれば聴覚を侵される。
耳を閉じれば触覚を犯される。
心を閉ざせば楽になれるのに、それだけはどうしても出来なかった。
Kids Nap―キズナ―5
光をほとんど通さない殺風景な小部屋は、埃と腐った水が混じり合ったような臭気に満たされていた。
部屋と廊下を繋ぐ扉の上には、予備電力すら尽きかけた非常灯があった。緑色の無機質で不潔な光が、ひたりひたり不安定なリズムで点滅していた。捕らえられている葉の焦燥に唱和するようでもあり、死にかけのホタルのようでもある。
弱々しく点滅していた非常灯は、葉が一瞬目を離した間に、それきり二度と動かなくなった。
部屋はまた一つ闇に閉ざれる。きっと、出口なんてないのだ。
『そんなに脅えないでよ。何も取って食おうっていうんじゃないんだから』
「ぐっ……んっん……!」
兵部の姿を取る男は嘲笑い、ぐったりと俯く葉の顎を指で持ち上げた。正面を向かされ、無理矢理に相対させられる。兵部の、兵部たらしめる特徴的な暗い色の瞳までもがそっくりだった。
(こんなの反則だろ…)
声も、姿も、纏う気配の色さえも、幼いころから慣れ親しんだ兵部京介のそもの。
当然だ、これは葉の脳が作り出したイメージなのだから。
ヒュプノというのは魔法じゃない。単純な暗示であり、対象の脳にあるイメージを利用増幅しているにすぎない。だからこそ望まない暗示はかけづらいのだが、この場合、その特性が最悪の事態へと指向し始めていることを、葉もいよいよ認めないわけにはいかなかった。
兵部の視線が、葉を射貫く。兵部の暗い瞳には、怯える自分の姿が映りこんでいた。耐えきれなくなり、とうとう視線をずらした。部屋の隅を見たこともない奇妙な虫がかさかさと這って居た。
「は、ぁ、ねぇ、なんでこんなことするの」
薬のせいで朦朧とした頭だが、それでもこの状況の異様さと不可解さには疑問を持った。漠然と、しかし確実に足元から這い来るねばつく寒気は皮膚感覚を狂わせる薬のせいでも、裸に剥かれているせいでもない。
『こんなことって?』
兵部は相変わらず、葉の曝された肌に手の平を当てている。ゆるゆると局部をなぞり、気紛れのように脇腹を抓ったり引っ掻いたり、首筋に噛みつきもした。純然とした痛みとは別の不快感と痛覚に、葉は幾度も声をあげそうになっていた。
「俺、男なんだけど。裸に剥いて肌撫で回して、なんか楽しいワケ?」
ESP対策が施された手錠ががしゃりと鳴った。金属がぶつかりあう音はまるで、悲鳴のようだった。
『そういう差別的な発言はいただけないなあ。けっこう楽しいぜ?それに葉も、『僕』のことが好きだったんだろ?』
その言葉に揶揄するような含みはなかった。まるで兵部本人に聞かれているかのような真摯な響きに葉はとまどう。
(あたりまえだろ。何考えてるかわかんねぇし、ジジイのわりににガキみたいで、自分勝手で頑固なのに気紛れで、ノーマル抹殺とか言ってるわりには俺らおいて真っ先に死のうとしやがって…ああ考えただけでムカついてきた。……じゃなくて、…本当は誰よりも優しいあいつが……いや、それも違うな。ガキみたいで残酷なとこも、全部ふくめて俺は、少佐が好きだ)
小さい頃に助けられたからとか、育ててくれた恩人だから、とかそんな後付けの理由ですらない。
兵部は葉にとって世界まるごと全てを埋め尽くす存在だった。
『触れたいと思ったことはないのかい?キスしたいと思ったことは?』
すっかり黙りこくった葉の耳に、兵部は楽し気に囁く。唇が触れてしまいそうな近さだった。
「……っ妙な言い方すんなっ。あるわけないだろっ」
あるわけがない。
日常的に、馬鹿げたケンカのの延長でぎゅうぎゅう抱きしめられることは未だにあるし、子供のように頭を撫でられることもある。それに「したい」と思ったら、葉はきっと、子供らしい素直さで、とっくにそうしていただろう。子供に甘い兵部もきっと応えてくれる。
でも葉は、そんなことを考えたことすらなかった。ただ今のまま、近くにいられるだけで幸せだった。
『ってまあ、冗談はおいといて――』
兵部の漆黒の瞳がすいと細められる。視線の切り方一つで温度が冷えたものに変わる。
『服はね、理性そのものなんだ』
兵部はこう続けた。
――剥き出しの裸をであることを恥ずかしいと思い、人間は服を着る。この服こそが理性そのものなんだ。服を着ると安心するだろう?それは、敏感で制御し難い本能を守るためだから。もちろん精神的なプロテクトも一緒だよ。だから裸に剥くのが一番手っ取り早いんだ。高レベルエスパーは心の表層を無意識に守ってるけど、それがどこまで通用するか見ものだね。
兵部はくつくつと声を潜めて笑う。
『服を剥ぐように、理性も、人格も、記憶も、心も、君という人間から全部剥ぎ取って壊してやる。拷問もいいが、それにはこれが一番効果的なんだよ。恥ずかしくてみじめで……今すぐに逃げたいだろ?』
「……イカれてんな、あんた」
『それに君は充分に可愛いし、魅力的だ。きっと、『僕』もそう思ってただろうね』
もう遅いけど、と呟く兵部の声は死刑宣告のように葉の耳に届いた。
「な……どういう――ン、ん、う……!」
奈落の底に突き落とされたような冷えた重力を感じる。また一つ視界が塗りつぶされていく。ぐらりと足元が揺れたのは、気のせいでも錯覚でもなかった。足を抱えられて持ち上げられた。吊された手首に手錠が食い込む。
何が起こったのか頭が理解するよりも早く、衝撃が走った。
「ぁっ、アァ、アアアアアアア!」
足を割り開かれ、その用途でもないのに慣らされずに貫かれた痛みよりも、ショックの方が大きかった。絶望が引き攣れた悲鳴を作る。一歩遅れて遅う痛みと熱さ。傷口から血が滴っているのか、焼けるように熱かった。
「……や、めっ。俺に触ん、な……!」
『嬉しいだろ?君の好きな『僕』に犯されてるんだぜ?』
「ち、違っ……やぁっ、やめっろ…!」
今まで気付かなかった新たな感情が、ぼんやりと輪郭を持って葉の心にしこりを作る。
漠然とした不安は、静かな水面に落とされた小石のつくるさざ波のように、じわりじわりと広がった。沈殿した泥が巻き上げれ、思考を濁らせる。
「あ、ぁっ…」
腰だけを支えに体を揺さぶられる。流した血が潤滑油になり痛みはなくなったが、それは麻痺しただけとも言えそうだった。
兵部に貫かれ、見下ろされる。有り得ない倒錯だった。
「やだ……やめろっ、たのむ、から、ぁっ」
『泣くほど嬉しいのか?『僕』に犯されるのが』
葉は精一杯の憎しみを込めて嘲る『兵部』を睨んだ。が、それは葉の、本物の兵部への思いを裏付けることにしかならず、ますます『兵部』は笑みを深くした。
(たすけて……、助けて、少佐…)
きっと自分を探している、『本物』の少佐が脳裏にちらつく。
不思議と、思い浮かぶのは全て笑顔だった。頭を撫でてくれる細いのに力強い手。小さい頃、眠れない夜に呆れながらも添い寝してくれる優しい笑顔。置いてかないでと泣きながらすがるのを、苦笑しながら抱き上げてくれた腕。
(ごめん……もう……)
どんなことでも、耐えられると思った。理不尽な暴力には屈しないと決めていた。
それなのに。一度意識させられてしまった兵部への思いは理性に打ち込まれた楔になる。
そこから壊れていく崩壊の足音が、ひたりひたり、静かだけれど確かに聞こえるのだった。
Kids Nap―キズナ―5
――――
続くます。
18禁シーンそのものはちょっとスルー気味で\(^o^)/
愛がないのは書いてて書きづらいのです。想像で補ってくださ(ry
お気に召したらぽちっといただけたら嬉しいです…!