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今日から三日間は、葉兵、真木葉、真木兵それぞれの「初めて」話です。
でもエロくはないです。
とりあえず葉兵はバカみたいにほのぼのしてます
ラブミーサンダー
「葉ちゃんって命知らずよね。アタシにはとても真似できないわ」
そう感慨深げに肩を竦めたのはマッスルだった。
葉は空中に浮かせて広げていたグラビア雑誌から顔をあげると、隣のソファでかちかちとテレビのリモコンをいじるやたら露出の高い服の男を見やった。
「はぁ?なんの話?」
「少佐のコ・ト・よ」
マッスルは特徴的な女言葉で意味ありげに囁いた。
しばらくニュース番組と音楽番組、そしてバラエティが交互に映し出されたが、これといって気を引く物がなかったのか、すぐにプツンと軽い消失音を奏でブラウン管は硬質な灰色に戻る。
マッスルはリモコンを放り投げ、葉はますます怪訝そうに眉を顰めた。
「ほら、少佐にタメ口は聞くわ毒舌吐くわ体当たりで攻撃しかけるわで。少佐にそんなこと出来るのってアンタと桃太郎くらいじゃない?」
「あんな齧歯類と一緒にするなよ」
葉は不機嫌そうに鼻を鳴らす。ついでに念動力でリモコンとテレビ欄ののっているスポーツ紙を引き寄せたが本当にロクな番組はやっていなかった。
「いいじゃない。うらやましいな、って言ってるの」
「俺だってなぁ―― ……あ、」
「ん?どしたの?」
葉が苛立ちに声を荒げ、だがすぐに呆然と言葉を句切るのを見てマッスルが首を傾げた。
まさに今話題にしていた兵部から、葉の脳に直接テレパシーでの呼びかけが届いたのだった。
《ちょっと僕の部屋まで来てくれないか》
「……少佐が呼んでる」
葉は呟くと、あわただしく浮かび上がり、文字どおり、飛んで行ってしまった。
やれやれ、とあとに残されたマッスルは溜息をつく。
「……ほら、やっぱりうらやましいじゃない」
――――
「何か用っすかー?」
お邪魔しまーす、とドアノブを捻り侵入した兵部の部屋は、いつも通り適度に調えられていて(恐らく真木が頑張っているにちがいない)、特に目新しいものもないが葉は落ち着き無く視線を廻らせる。兵部は熱心にパソコンに向かっていたが葉を見止めると、「ちょっと頼みがあるんだけどね」と椅子ごとくるりと振り返った。
「明日から、先日保護した子たちの面倒見てもらいたいんだけど、やってくれるかい?」
「でも俺よりはコレミツとかが適任なんじゃ」
「サイコキノの子だけでもいいからさ。おまえ子供好きだろ?はい、これ」
葉は兵部から受け取った紙に、眼を通した。
プリントアウトしたリストには子供達の名前や保護した経歴が連なっていて、なるほど、一癖も二癖もありそうな力の持ち主だと唸った。
「了解っと。でも別に俺、子供好きってわけじゃないっすよ」
「はは、でもずいぶん懐かれているじゃないか。それとも、子供達には葉が年上に思われてなかったりしてー?」
兵部がやたら楽しそうに笑うから、葉は子供みたいに頬をふくらませた。
確かにチビたちには「パンドラの幹部」どころか「年上のお兄ちゃん」とも思ってもらえず、せいぜい同年代の遊び相手、と思われている節があると溜息をついた。慕われていることには変わらないので構わないのだが。
「まぁね。ボスがこんなんだし?」
葉がおどけて肩を竦めて見せると、兵部は「あ、言ったな?」と機嫌良く笑った。
その笑顔を見て、ふとマッスルに言われたことを思いだした。
――少佐にタメ口は聞くわ毒舌吐くわ体当たりで攻撃しかけるわで。少佐にそんなこと出来るのってアンタと桃太郎くらいじゃない?
そんなことはない。
葉は心の中で力いっぱい首を振る。
確かに程度こそ違えど兵部を崇め敬い心酔しているという点で団結しているパンドラの中で、「少佐はダチで家族」と言い切る葉の存在はかなりの程度まで異質だったが、葉はおそらく、誰よりも恐れていたのだ。
兵部に嫌われること、兵部に拒絶されることを。
「どうした、葉?変な顔して」
「……なんでもねーよ。もう年なんだから早く寝ろよ。じゃ、おやすみ」
だから、距離を測るのだ。
どこまでなら暴言を吐いても許されるのか。どこまでなら、悪態をついても許されるのか。
どこまでなら、距離をつめても許されるのか。
ひらりと手をふって背を向けた葉に、兵部は苛立ちを隠しもしないで見えない手で引き寄せた。
「なにすんだよジジイ!」
「葉、おまえ僕に何か隠し事してるだろ」
「いたたたたた!してない、してませんて!」
「ほんとかなー?怪しいなぁ」
引き寄せた頭を、ぐしゃぐしゃに撫でて接触感応で透視みとろうとする兵部に葉は「ほんとにタチの悪いジジイだな!」と心のガードを分厚くする。
ひとしきり柔らかい髪の感触を楽しんだあと、兵部は葉の頭を離して、そして子供にするように頬にキスした。いつもの、小さいころから繰り返されたなんてことのない挨拶。葉も兵部の反対の頬に唇を落とした。
(ったく。俺が苦労して距離を測ってるってのに、気紛れだからな、この人は)
葉は肺の中の空気を全部吐き出すようなためいきをつく。
「ねえ、少佐。俺のことまだちっちゃなガキだと思ってる?」
それこそ、新しく拾って来た、葉に世話を任せることにしたエスパーの子供たちのように。
兵部の飲み込まれそうな深い闇のような瞳を覗き込むと、兵部も葉をじっと見つめ返した。
「……半々、かな。いつまでも僕の子供だとは思ってるけど、小さいとは思ってないよ。いつのまにか図体ばかりでかくなっちゃって」
月日の経つのは早いねぇ。
と、その笑みがとても儚い頼りなげなものに見えたから、葉は胸が痛くなる。
だから。思わず、これまで慎重に見定めてきた距離を測り損ねたのだ。
「んっ………、よう、」
「あ……」
頬までなら許される距離を、自ら踏み外す。
唇を奪って、息が出来なくなるほど深く口づけてから自分のしでかしたことに気付いて涙が滲んだ。
「ごめん、冗談っすよ!じゃあおやすみ、少佐!」
「こら待て、葉!」
ふわりと浮かんで兵部から離れようとするが、紅葉の空間固定のように体を金縛りのような見えない力に縛られて動けない。こんな時テレポーターなら一瞬で去れるのに、とサイコキノな自分を恨む。
「離してよ、少佐、」
「ひどいなあ。やり逃げする気?」
「なっ…!」
あまりの言いザマに眼が眩む。
葉はぶんぶんと首をふって、真っ赤になった頬を兵部の肩にうずめた。
「なんだよ。泣くことないじゃないか」
「泣いてねーよ」
ぎゅうぎゅうと力いっぱいしがみつく葉の背を兵部は撫でる。
「……こんな、つもりじゃなかった」
「葉?」
家族という枠組を、逸脱するつもりはなかった。
しかし、壁をやぶって一度触れてしまえば、あとは呆気ないほど簡単に転がり落ちる。
触れる腕の熱さだとか、心臓の音、柔らかい匂いの一つ一つに欲情する。
まぶたの裏がかっと熱くなり、抑えきれない。
「ごめん、少佐」
気付くと葉は兵部をフローリングの床に押し倒していた。
兵部が座っていたキャスター付きの椅子がガランと派手な音を立てて転がり倒れ、ぶつかったはずみでマウスが落ち、コードに引っ張られて空中に垂れ下がった。
押し倒して組み伏せ、決定的に一線を踏み越えているのに葉はまだ戸惑って困惑して、それどころか今にも泣きだしそうに震えている。兵部はしょうがないねと耳もとで囁くと、葉の手を取り、自分も発情しかけている熱の中心に導いた。
「素直な子は好きだよ。きみの好きなようにしてごらん?」
ちらばった二人分の衣服。
冷たい床。生温い倦怠感と饐えた精の匂い。
初めてふれる温度に緊張しながら、葉は照れ隠しのようにささやいた。
「ごめん、少佐。驚かせちゃったよな」
驚かせてごめん、嫌な思いさせてごめん、もうしないから、だから少佐も忘れて。
そう捲し立てる葉に、兵部は呆れたように笑う。
「あのねぇ。僕は君に驚かされるほどまだモーロクはしてないつもりだけど?」
バカにするなよ、と兵部は笑う。
ずいぶん前からから気付いてたし、これっぽちも嫌な思いはしてないよ、と掠れた声で囁いた。
そして、まだ泣きそうな顔をしている葉に「でも」とつけたした。
「でも……まさか床でヤられるとは思わなかった。若いっていいねぇ」
兵部が腹の上に跨る葉を見上げると、葉は今度こそ赤面して目元を擦った。
「……っ!うあー、俺すっげぇかっこ悪ぃ。ごめん、今移動する」
「いいよ、ここでしよ。だいたいおまえさぁ、もしベッドまで移動するって選択肢を選べるくらい冷静だったら、そもそも今こんなことにはなってないだろ」
兵部は口を尖らせると上にのる葉の上半身を念動力で引き寄せた。
体を重ね、何度となく唇が触れ合い距離がゼロになった。
一度目より二度目のほうが簡単だし、二度目よりも三度目のほうがより愛しい気持ちに満たされる。
どこまでなら暴言を吐いても許されるのか。どこまでなら、悪態をついても許されるのか。
どこまでなら、距離をつめても許されるのか。
その答えが知りたければ、ほんの少し勇気を出して指を伸ばすだけでよかったのだ。
ラブミーサンダー
――――――
結局雰囲気はいつもの兵葉とかわらないのは仕様です。
葉兵でも兵葉でも葉が少佐好きすぎなのでどうしてもいじらしく可愛くなってしまうのがいけない!
少佐もなんだかんだ葉には甘いといいな。
お気に召したらぽちっといただけたら嬉しいですv