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「うーん、やっぱひげもつけようかなぁ」
首を傾げたり後ろを向いて振り返ったり鏡を熱心に覗き込む兵部。
全身が映る大きな姿見の中に映る銀髪の少年は、いつもの黒い学生服ではなく赤いフェルト地の上着にズボン。襟と袖口についているもこもことしたファーの折り返しをしきりに引っ張って兵部は何度も鏡の中の自分の姿を確認している。サイズを間違えたのか、ぴんと手を伸ばしても、だぼだぼの袖口からは指先しか見ていていない。もぞもぞとミトンのような指無し手袋をして、ぽんぽんのついた同じく赤い帽子をすぽんとかぶった。
「これで完璧♪あいつら驚くだろうなあ」
その時兵部の寝室のドアが遠慮がちに開かれて、10センチ程開いた扉の隙間から覗く瞳と鏡越しに目があった。司郎は、もうクリスマスパーティを初めているのにいつまでたってもやってこない兵部を呼びに来たところだった。
「何してるんですか、少佐。……コスプレ?」
「失礼な。変装だよ」
コスプレと変装。あるいは仮装。
どう違うんだと司郎は眉間に皺を寄せてオーソドックスなサンタに扮した兵部をまじまじと見つめた。
「どうだい、どこから見ても本物のサンタさんだろ?」
葉なんて感動で泣いちゃうかも、と年甲斐もなくキラキラとした瞳に見つめられ、司郎はコメントに困って視線を泳がす。何か気の効いた言葉の一つも返したい。
そういえば、さっきとてもよく似た人を見た。そうだ、すごくそれっぽい。
「……駅前でティッシュを配ってそうですね」
「…………」
兵部は力任せにべりべりとふさふさの白い髭の飾りを口元から外して床に放り投げる。
髭など無い方が兵部の顔だちがはっきり見えるので、やはりこの方が良い。
「とても、よくお似合いです」
今度は腹の底からするりと出てきた言葉。
兵部は一瞬、呆気に取られたような、妙な顔をしてみせた。
「そう…かな。ありがと」
兵部の顔はサンタの衣装のようにカアアと赤く染まった。
「じゃあ司郎は先にリビングに行ってなよ」
「少佐は?」
「僕は窓から登場するよ」
「それは……驚きますね」
突拍子もない養い親の言動に、ごくごくまともに育った長男はやはり言葉を失うのだった。
――――――
紅葉への贈りものの洋服は兵部の見立て通りやはりとてもよく似合っていたし、葉にと選んだテレビゲームも、使い方が解らないのか、きょとんとした瞳で受け取ったが、一応気に入ってもらえたようだった。
「後片付け全部やらせてしまって悪いね」
「いえ、これくらい。少佐は座ってて下さい」
楽しい時間はあっという間にすぎるが、そこで途切れるわけではない。
まだ、もう少しだけ続くのだ。あと何年か、何十年かはわからないが。
司郎はカラになった食器やらたくさんのプレゼントの箱や乱暴に破られた包み紙をてきぱきと片付けていた。
兵部はカーペットに腰を下ろしたまま働き者の長男を見守っていたが、なにも兵部が怠けているわけではない。
「葉、紅葉……、起きろ。寝るならベッドに行け」
「ん……うー……」
「いいよ、司郎。このままにしてあげな」
兵部は、弟たちを揺さぶって起こそうとする司郎の手を制した。膝の上――もとい足の間で眠ってしまった葉を起こしてどかすのも忍びなく、兵部は床の上で足を伸ばしたまま動けなかったのだ。そして兵部の肩にもたれるようにして眠り込んでしまった紅葉にもまた同様だった。
「ですが……」
「まあ、ちょっと足が痺れてきたけど。いつのまにかだいぶ重くなっちゃったなあ」
すうすうと、両側から聞こえる穏やかな寝息に挟まされて兵部は苦笑する。しかし、はやりどかす気にはなれなかった。
もらったテレビゲームのコントローラーが小さな手で握られたままだったから、起こさないように、指をそっと外す。ふにふにとした柔らかい頬をつついても未だに起きる気配がない。むにゃむにゃと気持ちよさそうに動いて、こてんと寝返えりをうつ。寝やすい、納まりの良い場所を探して兵部のもこもことしたサンタ服に顔を埋めた。
くしゃくしゃになった柔らかい赤毛に手をかざすと、葉の見ている夢が兵部の脳裏にも透視という形で伝播した。それはいつも見る、寂寥とした荒野でもガレキに埋もれた暗い空でも弾丸と共に追いかけてくる無関心の塊でもなく、あのケーキに灯した蝋燭の炎のようなオレンジ色の光だった。暗闇に浮かぶ小さな暖かい光が、いつか心の闇を追い払う程に成長することを祈って兵部は子どものすべらかな額に唇を落とした。
司郎は食器を片付けるためにキッチンの方へと行ってしまった。兵部はリビングに残された。静かだったが、どこからか微かに音楽が流れてくる。未だついたままのコンピューターゲームの画面からだった。チープな、しかしどことなく懐かしい感じを与える静かな電子のメロディ。途中で飽きたのか、ゲームオーバーになったのか、真っ黒の画面には『CONTINUE』の文字が白く輝いている。
兵部は、リモコンを引き寄せると電源を落とした。ふつりと消失音が広がり、静寂が波紋する。部屋は再び静けさに包まれて、葉と紅葉の寝息と、司郎が食器の後片付けをしている音がキッチンから聞こえてくる。水がシンクを叩く音と、食洗機の低い唸り声。食器がぶつかる音も今は耳障りでは決してなく、どんな微かな音の一つ一つも、司郎の動きを雄弁に伝えてくる。目を瞑ると、遠隔透視をしているようにつぶさに想像出来た。いつもの、子どもらしからぬいやに真剣な仏頂面。まるで聖書をめくる敬虔な信者のように右から左へ指先を動かしている。「おつかれさま」。一生懸命に頑張る小さな背中にかけたが司郎は振り返らない。当然だ。兵部は夢の中で声をかけたのだから。
「ん……」
「あの、毛布を」
「え、ああ」
兵部は二三度目を瞬かせてあたりを見回した。
その拍子に、肩から羽毛の布団がずり落ち、兵部は暖かな温もりに包まれていたことを知った。いつの間にか寝てしまっていたらしい。部屋はすっかり元のように片付けられていた。時計を見上げると、パーティがお開きになってから1時間ほどたっていた。葉も紅葉も兵部に寄り添ったまま、やはり穏やかな寝息を立てている。
「さすがに、部屋で休んだ方がいいかと……」
兵部は目を擦り、欠伸をしながら眠たそうに幾度も首を振る。もこもことしたサンタ服は暖かく、パジャマのような手触りがする。兵部は呆れたように自分を見下ろす司郎を手招きした。
「君にプレゼントあげるよ」
「さっきいただきましたが」
「いいんだよ、もう一つ。ほら、おいでおいで」
司郎は首を傾げながらも、床にぺったりとうずくまって伸びをする兵部の前に誘われるまま膝をついた。兵部は赤い大きな三角帽子を外すと、司郎の黒髪にずっぽりとかぶせた。
「わっ!!!」
目を塞がれ頬まで隠れるほど力任せにサイズのあわない帽子をかぶせられ、司郎は小さく叫んで後ずさる。兵部はこらえきれなかったのかクククと笑うと、視界を塞がれて慌てる司郎の頬にどさくさに紛れてキスをした。
「………ッ!」
言葉もなく口をぱくぱくと喘がせる司郎を兵部はぎゅっと抱きしめる。
「もっと欲しい?」
「ね、寝ぼけてるんですか少佐!」
「愛情も立派なプレゼントだよ」
あまり甘えることの出来ない子どもへの贈りもの。
兵部は朗らかに笑ったが、寝ぼけているのも否定は出来なかった。
だって、なぜかこんなに楽しい。目元までかぶせた帽子をとり、摩擦と静電気でぐしゃぐしゃになった黒髪を撫でて、現れた賢そうな額にもう一度唇を押しつけた。司郎はくすぐったそうに身を捩ったが、今度は嫌がりはしなかった。
「あー、しろーだけずるい!」
葉が兵部の膝の上でぱちりと大きな瞳を開けた。
「ほら、おまえが騒ぐから起きちゃったじゃんかー」
「俺のせい?!」
「しょうさー、して?」
ちゅ、と柔らかな唇を啄むと、再びじーっと見つめる視線を目があった。
いつの間に起きたのか、今度は紅葉だ。やれやれ、と兵部は苦笑してやはり同じように子供達にキスをする。
兄弟でもない。親子でもない。誰1人血は繋がっていない。兵部の気紛れのような救出から始まった「家族ごっこ」だったが、小さな絆の輪は確かにそこにあり4人を見えない繋がりで結びつける。暖かな部屋に満ちた光が永遠に燃え続けるようにと、聖なる夜に祈りを捧げるのだった。
ADVENT (了)
――――――
クリスマスパーティ真っ最中は公式が最萌えというかあのペーパー絵だけでお腹いっぱいなので何を書いても蛇足になるので割愛。
メリークリスマス!
一日おくれ?いえいえあと364日ありますよ\(^o^)/
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浦島太郎的な何かが起こったんですよ私のパソコン限定で(キリッ。
ほんとすみませんでも書いてよかった…コメント本当にありがとうございます…!うぁああ嬉しすぎて涙で前が見えない…!横山さんちのクリスマス、寂しげな切ない感じでとても好きですvへへ、こっそり通わせていただいてますvサンタさんにプレゼント、っていいなぁ。真木サンタ似合いすぎてどうしようw
ゲマズのあれは公式が可愛すぎてやばい!!葉、今にもゲーム機かじりそうな目してるよね、あのちったい手がやばい可愛いです。
コメありがとうでしたーv